映画「散歩する侵略者」を見る

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散歩する侵略者
2017年 日本 公開松竹=日活129分
監督:黒沢清
原作:前川知大散歩する侵略者」(劇団イキウメの舞台劇)
出演:加瀬鳴海(長澤まさみ)、加瀬真治(松田龍平)、天野(高杉真宙)、立花あきら(恒松祐里)、桜井(長谷川博己)、明日美(前田敦子)、丸尾(満島真之介)、車田刑事(児島一哉)、鈴木社長(光石研)、品川(笹野高史)、牧師(東出昌大)、医者(小泉今日子

★ネタバレあります!★

蠱毒 ミートボールマシン」の後で見たこともあり、なんて知的で落ち着いた宇宙人地球侵略ものなんだろうと思った。
「僕は実は地球を侵略しにきた宇宙人なんだ」という言葉を不意に隣にいる人に言われたら。という絶望的に目新しくないネタを、まっとうに、淡々と、低予算でやっていて、それでもって、おもしろい。
偵察のため派遣された「彼ら」は3人いる。それぞれ女子高校生あきらと青年天野と会社員真治の身体を乗っ取っている。真治の妻鳴海は、行方不明だった夫を迎え入れるが、その豹変ぶりに戸惑う。
彼らは簡単に地球人を殺せるのだが、とりあえず地球人を知るため概念を盗む。盗まれた地球人の頭からはその概念が抜け落ちてしまう。真治は会社を辞め、近所を散歩しながら人々の概念を盗んで回る。「家族」を盗まれた鳴海の妹明日美はいささか険しい表情となるが、「自由」を盗まれた主婦はおだやかな表情となり、「所有」を盗まれた引きこもりの青年は生き生きとし、「仕事」を盗まれた中小企業の社長は喜々として楽しそうである。
ジャーナリストの桜井は、自分は宇宙人だという天野を当然最初は全く信じなかったが、やがてそれが本当であると認め、「ガイド」として彼と行動を共にし、あきらと合流する。鳴海と真治は、厚労省の官僚だと名乗る男笹野が率いるチームから追われ、桜井と天野とあきらは逃げる二人を探す。この地球人のガイドと宇宙人の混合チーム2組の様子が交互に描かれ、やがて彼らは出会う。警戒する鳴海に桜井が「ガイド」という言葉を告げるだけで鳴海が状況を理解するのは極めて効率的だったが、そのあとは、あきら・天野と真治がごく短い間向き合っただけで別れ、で、また会ってでもまたすぐ別れ、といったもたもたした展開となる。あんなに優位そうだったあきらと天野が倒れ、桜井は天野から地球襲撃のための情報の発信という無茶な任務を託される。それからの彼の中身は天野なのか、桜井本人なのか。宇宙人が、特に天野があまりにその辺の青年然としているせいか、この一連の成り行きには、なんとも奇妙で独特の味わいが漂っている。こういうのをオフビートというのか、でも、軽すぎるでなく、重すぎもせず、バランスがすごく微妙だ。
ラスト、宇宙人の侵略が始まる中、鳴海の心は夫への「愛」でいっぱいになり、「愛」を盗んだ「真治」はあまりの衝撃によろけ、しばらくして鳴海の中身は空洞となる。
結局愛が世界を救うというこれまた死ぬほどありがちな話なのだが、それも至ってそっけなく、さらりと描いていて、ハードボイルドだ。

散歩する侵略者

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