映画「ザ・ミソジニー」を先行で見る(感想)

ザ・ミソジニー
2022年 日本 77分
監督・脚本:高橋洋
スタイリングディレクター(衣装):藤崎コウイチ
出演:ナオミ(中原翔子)、ミズキ(河野知美)、大牟田(横井翔二郎)

7月24日に、新宿シネマカリテのシネカリ(カリテ・ファンタスティック・シネマコレクション2022)で、高橋洋監督の新作「ザ・ミソジニー」を見た。(そのあとコロナに感染したりして、ブログに感想上げるのが大幅に遅れた。)

タイトルから、男尊女卑で女性蔑視のいやな野郎が謎の洋館で二人の美女に酷い目に遭わされる痛快ホラー?と思っていくと、全然ちがう。
林に囲まれた洋館を舞台に二人の女と若い男が、なにか霊的なできごとに遭遇するのだが、なにが起こっているのか、見ていてもよくわからなかった。

女優で劇作家のナオミ(中原翔子)はとある洋館をひと夏の間だけ借りて住んでいて、執筆中の戯曲の練習をするために、友人の俳優ミズキ(河野知美)を呼び、ミズキはマネージャーである大牟田(横井翔二郎)とともに洋館を訪れる。その戯曲は、殺された母と娘の物語で、ナオミがかつてテレビの特番で見た失踪事件がもとになっていた。そして、実はこの洋館はその母娘が住んでいた家らしいのだった。
というところまでは理解したが、そのあとわからなくなっていった。

チラシにもあるように、二人の女優が演じているのが、自分なのか、「役」なのか、それとも降りてきた「霊」なのか混然となっていくのがおもしろいのだと気づくが、それにしてもいまどの状態なのかわからない。
しっかり作られた重厚な画面において、ゴージャスな衣装(年代物の本物の司祭の服などを交えているそうだ)をまとった大人たちが、とにかくなんか霊的な事態にまじめに真っ向から取り組んでいる。なにやっているかわからないのだが、見入ってしまう。
画面に漂う痛快なまでの陰うつさは、高橋洋作品の持つ妙味のひとつだと思っているのだが、今回はそれが全編に渡ってずうっと漂っていて、よかった。
プログラムを見ればわかりますと舞台挨拶で壇上に立った監督が言うので千円のプログラムを買った。内容がびっしり詰まっているプログラムで「STORY」を読めば何が映っていたか、何をやっていたかはわかったが、なんでそうなるのかはよくわからなかった。
何回見てもスッキリわかる感じはしないのだが、とりあえずプログラムを読んだあとでもう一回観に行ければと思う。

※「ザ・ミソジニー」は、9/9(金)からシネマカリテにて上映予定。

misogyny-movie.com

久々に劇場版コナンを見る「名探偵コナン ハロウィンの花嫁」(感想)

名探偵コナン ハロウィンの花嫁
2022年 日本 東宝 110分
監督:満仲勧
原作:青山剛昌
声の出演:江戸川コナン高山みなみ)/工藤新一(山口勝平)、毛利蘭(山崎和佳奈)、毛利小五郎小山力也)、鈴木園子(松井菜桜子)、灰原哀林原めぐみ)、吉田歩美(岩居由希子)、小島元太(高木渉)、円谷光彦(大谷育江)、阿笠博士緒方賢一)、
目暮警部(茶風林)、佐藤刑事(湯屋敦子)、高木刑事(高木渉)、白鳥刑事(井上和彦)、千葉刑事(千葉一伸)、
降谷零/安室透/バーボン(古谷徹)、風見裕也(飛田展男)、
諸伏景光/スコッチ(緑川光)、松田陣平(神奈延年)、伊達航(東地宏樹)、荻原研二(三木眞一郎)、
村中務(三宅健太)、クリスティーヌ・リシャール(山口由里子
エレニカ・ラブレンチエワ(「ナーダ・ウニチトージティ(プラーミャへの復讐を目的とするロシア人の民間組織)」のリーダー。白石麻衣)、オレグ・ラブレンチエワ(ボルケーノ太田)、ドミトリー・ラザレフ(ウラジーミル・ボグダーノフ)、グリゴーリー・ラザレフ(アレクセイ・ラフーボ)
プラーミャ(謎の殺し屋)

★映画の内容について書いてます!★

 

久しぶりにコナンの劇場版を映画館で見た。コナンを見始めた当時幼稚園児だった娘は小学校入学を迎えてコナンと同じ年になり、追い越し、さらには高校生の蘭姉ちゃんを追い越し、いまは小五郎が最も近い年代となりつつあるが、その娘が誘ってきたので、30-60親子で観に行ったのだった。

登場人物がだいぶ増えていて冒頭のこれまでの経過の説明部分も長くなっていた。特に安室を取り巻く公安や同期の男たちなど、誰が故人でどういういきさつで亡くなったのか把握しきれていず、説明についていけないとこもあった。

目暮警部の同期で元刑事の村中は、ハロウェインの日に渋谷ヒカリエの式場で結婚式を挙げる予定だったが、式場襲撃の脅迫状が送られてきたため、警視庁が警備にあたることに。佐藤刑事と高木刑事の結婚式で始まる冒頭から突っ込みどころ満載で楽しい。
一方、釈放された元爆弾犯を監視していた安室は、マスクをつけた謎の人物に首輪爆弾をつけられてしまう。3年前、安室とその同期の松田、伊達、諸伏は、荻原の墓参りの帰りにビル爆破事件に関わり、現場で犯人に遭遇した。松田が爆発を食い止め、肩に銃弾を受けた犯人は逃走する。その犯人はロシアを本拠とする殺し屋プラーミャで、再び日本にやってきたのだった。
プラーミャは、青とピンクの液体が混じると爆発する強力な爆弾を使う謎の殺し屋。その殺しに巻き込まれて死んだ大勢の犠牲者の遺族たちは、プラーミャへの復讐を目的とした民間組織「ナーダ・ウニチトージティ」を結成していた。リーダーのエレニカとその仲間はプラーミャを追って日本にやってきた。
安室から絶大な信頼を得ているコナンも彼から情報提供を受け、プラーミャを追う。

ハロウィンに沸く渋谷の街を舞台に、プラーミャが仕掛けた大掛かりな爆弾が作動し始め、渋谷の街があわや火の海に!という展開となる。スクランブル交差点やヒカリエや宮下パークなど渋谷の街並みがリアルに映し出されて知っている者には興味深い。松田が用いたガム、阿笠博士の新発明のでっかいボール、渋谷の地形の話から、クライマックスは推測できる。バカSFならぬバカスぺクタクルを楽しめばよいかと思う。

わたしの隣に座った小学生の男の子は、はらはらする場面で「やべ、やべ、やべぇ~!」と「やべえ」を連発して盛り上がっていてよかったが、全体としては、常連の刑事やここんとこ人気上昇中らしい安室とその同期の男たち、そして今回ゲストのエレニカ一派など、大人の話が大半を占め、少年探偵団による子ども受け部分や、コナンの活躍の割合はだいぶ減っているように思えた。もうコナンは探偵であることを周囲の大人たちも認めちゃっているので、「あれれえ」と言って証拠をみつけて大人たちを誘導したり、眠りの小五郎を使って推理を披露する必要がなくなっているらしく、私や娘が見ていたころのコナンとは違ってきているようだった。

www.conan-movie.jp

 

映画「トップガン マーヴェリック」を見る(感想)

トップガン マーヴェリック TOP GUN: MAVERICK
2022年 アメリカ 131分
監督:ジョセフ・コジンスキー
出演:マーヴェリック/ピート・ミッチェル(トム・クルーズ)、
ペニー(ジェニファー・コネリー)、アメリア(リリアナ・レイ)、
サイクロン(ジョン・ハム)、ホンドー(バシール・サラフディン)、ウォーロック(チャールズ・パーネル)、ハンマー(エド・ハリス)、アイスマン/トム・カザンスキー(ヴァル・キルマー)、
ルースター/ブラッドリー・ブラッドショウ(マイルズ・テラー)、フェニックス(モニカ・バルバロ)、ハングマン(グレン・パウエル)、ボブ(ルイス・プルマン)、ペイバック(ジェイ・エリス)、ファンボーイ(ダニー・ラミレス)、コヨーテ(グレッグ・ターザン・デイヴィス)

★映画の内容に触れています!★

36年ぶりの続編。
36年経っても昇進も引退もせず、現役でパイロットを続けているマーヴェリックが、エリートパイロット養成所“トップ・ガン”に戻ってくる。某国が地下に造成中の核爆弾施設を完成前に壊滅するという、恐ろしく困難な任務遂行のため、特別教官として若いパイロットたちの訓練を行うこととなったのだ。教え子の中には、飛行中の事故で亡くなったかつての相棒グースの息子ルースターがいて、マーヴェリックに対し反感を抱いている。
教官のサイクロンは、マーヴェリックの考えた作戦は技術的に到底不可能と判断し、彼を外し、違う作戦を取ろうとする。が、その作戦では敵の猛攻を受けることは間違いなく、チーム全員が生きて帰れる可能性はほとんどないため、生徒たちは絶望的な思いに陥る。が、そのとき、勝手に戦闘機で飛び出したマーヴェリックが、訓練用のコースで見事に隘路の低空飛行をしてターゲットを攻撃し、自分の作戦遂行が可能であることを証明してみせる。かくして教官として呼ばれたマーヴェリックは、チームリーダーとしてミッションに参加することになるのだった。
ルースターとチームを組み、命を預け合ううち二人の間のわだかまりが消える。二人してもはや旧式となったF14を飛ばして敵方から逃れるのもいい。
36年ぶりの続編となれば、ヒーローは引退していたところを不本意ながら駆り出され、徐々に昔の腕を取り戻してロートルの意地を見せるというのが通常の展開だろうに、どこまでも現役のマーヴェリックは、演じるトム・クルーズそのものである。なによりそこがすごい。細かいことはおいといて、もやもやとした映画が多い中(それが作品として劣るということではないが)、久しぶりにすかっとする痛快なアメリカ映画を見た。

topgunmovie.jp

 

フランスの小説「異常(アノマリー)」を読む(感想)

異常(アノマリー L’Anomalie
エルヴェ・ル・テリエ著(2020)
加藤かおり訳 
早川書房(2022)
★後半、ネタバレあります!!★

フランスのSF小説で、ゴンクール賞というフランスの文学賞受賞作。朝日新聞の書評で知って、図書館に予約していたのだが、貸出の順番が回ってきたのが約3カ月後だった(ちょっと小説の内容とかぶるかも)。
SFといっても科学小説というよりは、「世にも奇妙な物語」の長編フランス文芸小説版といった感じ。243人の乗客・乗務員を乗せたパリ発ニューヨーク行きの航空機エールフランス006便は、突如発生した異常に大きな積乱雲を避けきれず、ものすごい乱気流に巻き込まれる。機内は騒然とするが、雲は突然消え、飛行機は無事ニューヨークに着陸する。しかし、それから3カ月後、世にも異常な現象が発生する・・・。
紹介文では、乗客のうちの3人が主な登場人物のように書かれているが、実は3人ではすまない。前半は、飛行機に乗っていた人たちが次々に10人ほど登場する。それぞれについて人となりや今ある状況を説明していき、彼や彼女のことがわかったと思うと、次の人に代わっていくので頭の切り替えがたいへんで一体何人出てくるんだと、少々めんどうくさくなる。
殺し屋ブレイクが最初なので、出だしはハードボイルドな犯罪小説のようだが、彼が目立つのはほぼ最初だけである。次は、売れない小説家のミゼル。そしてシングルマザーの映像編集者リュシーとその年上の恋人で初老の建築家アンドレ。デイヴィッド(最初は彼がパイロットであることは明かされない)。カエルをペットにしている7歳の少女ソフィアとその家族。アフリカ系アメリカ人の弁護士ジョアンナ。歌手のスリムボーイ。女優志願の若い女性アドリアナ。さらに乗客ではないが、事態に対処するために呼ばれた確率論研究を専門とする学者エイドリアンと数学者のティナの話も加わる。
異常現象は、国の機密事件となって「プロトコル42」と呼ばれる作戦が発動される。アメリカの国家軍事指揮センターの将軍(シルヴェリア)やFBI心理作戦部特別捜査官(ブドロスキー)、国家安全保障局NSA)のデジタル監視責任者(ミトニック)などが登場して対応にあたる。アメリカ大統領は明示していないが、トランプ氏らしく、そう思って読むとおもしろい。
とにかく、前半の人物紹介が長く、異常現象が現れてからもこの物語は一体どこに着地したいのかわからず、五里霧中で読み進むような感じだった。
以下ネタバレです。

異常現象とは、006便が無事着陸した3か月後、同じ機が同じ乗客・乗務員243人を乗せて、突如ニューヨーク上空に現れたことをいう。つまり243人の人間がダブって存在することになるのだ。3月に普通に飛行機から降りて日常生活を続けている乗客たちはマーチ、3か月後の6月にに突如現れた第二の同人物たちはジューンと呼ばれる。3カ月の間に、ある者は自殺し、あるものは病の宣告を受けて死を迎えつつあり、ある者は恋人と別れ、ある者はこどもを身ごもり、ある者はスターになっている。自分が2人いたらどうなるか、考えられる様々な例を示していく思考実験みたいな展開になるのかと、後半もだいぶ過ぎてわかってくる。そうした異常現象に対応できない人々のマーチとジューンに対する不寛容な言動や悲惨な事件も描かれる。
殺し屋もの、恋愛もの、家族もの小説の要素がふんだんでわかりやすいが、哲学的で文学的である。ミゼル・マーチが自殺前に書いて大ヒットした小説が「異常」、そのあとミゼル・ジューンが構想中の「冬の夜二百四十三人の旅人が」は、登場人物が多すぎる、これでは読者がついてこない、もっと簡潔にしてずばっと核心に切り込んでよ、と編集者のクレマンスに言われるが、「遊び心にあふれて」いるミゼルは意に関せずといったところ。まさに私が前半読むのが面倒になった事態に合致する(こうゆうのをメタ発言というのだろうか。)そうした知的なユーモアも含め、好きな人には好まれそうである。おもしろいが、わたしにとっては珍味だった。

 

 

映画「シン・ウルトラマン」を見る(感想)

シン・ウルトラマン
2022年 日本 公開:東宝 112分
監督:樋口真嗣
総監修:庵野秀明
出演:神永新二(斎藤工)、浅見弘子(長澤まさみ)、滝明久(有岡大貴)、船縁由美(早見あかり)、宗像龍彦(田中哲司)、田村君男(西島秀俊)、防災大臣(岩松了)、総理大臣(嶋田久作)、政府の男(竹野内豊)、メフィラス星人山本耕史)、ザラブ(声:津田健次郎

冒頭、目が追い付かないスピードで映像と字幕を矢継ぎ早に繰り出し、日本が怪獣の国になっている状況を駆け足で説明するのは大変よかった。「空想特撮映画」の文字もよかったが、どうして怪獣じゃなくて「禍威獣」、科特隊じゃなくて「禍特対」(禍威獣特設対策室専従班)なんていうへんてこな漢字を使うのかよくわからなかった(著作権の問題とかあるのか)。
ウルトラマンがきれいすぎて違和感があった。立っているだけであまり動かないので、セクシーな彫像という感じで、戦う正義の味方というイメージと違った。
前半は、ウルトラマン世代のノスタルジーを喚起しまくるいろいろな要素を揃えて気合が入っていると感じたが、後半の異星人とのコンタクトという本筋に移ってからは、いまひとつ精彩に欠けたように思う。巨大化するスーツ姿の長澤まさみといかにもだけど宇宙人の山本耕史はよかった。
ゼットンがあんなになっていたのはいいとして、宇宙の誰もみていないところでの戦いは盛り上がらなかった。ウルトラマンがなぜそこまで地球人を好きになったのか、説明が乏しくて説得力がなかった。活劇としてわくわくするような気の利いた展開はなかった。

shin-ultraman.jp

 

ドラマ「イエローストーン」を見ている(シーズン3途中までの感想)

イエロー・ストーン YELLOWSTONE

2018年~  アメリカ TVドラマ
企画:テイラー・シェリダン、ジョン・リンソン
製作総指揮:テイラー・シェリダン、ジョン・リンソン、アート・リンソンケヴィン・コスナー

出演:ジョン・ダットン(イエローストーン牧場主。ケヴィン・コスナー)、ケイシー・ダットン(三男。ルーク・グライムス)、ベス・ダットン(長女。投資銀行勤務。ケリー・ライリー)、ジェイミー・ダットン(次男。弁護士。新司法長官に立候補する。ウェス・ベントリー)、リー・ダットン(長兄。デイヴ・アナブル)、モニカ(先住民。ケイシーの妻。教師。ケルシー・アスビル)、テイト(ケイシーとモニカの息子。プレッケン・メリル)、フェリックス・ロング(モニカの祖父。ルディ・ラモス)、ロバート・ロング(モニカの兄。ジェレミア・ビツイ)

リップ(カウボーイ頭。コール・ハウザー)、ジミー(新米カウボーイ。ジェファーソン・ホワイト)、ロイド・ピアス(ベテランカウボーイ。フォリー・J・スミス)、コルビー(カウボーイ。黒人。デニム・リチャーズ)、ライアン(イアン・ボーエン)、ウォーカー(ギターを持ったカウボーイ。ベテランだがイエローストーンでは新参者。ライアン・ビンガム)、エイブリー(カウガール。タナヤ・ビーティ)

ライネル・ベリー(モンタナ州知事。ウェンディ・モニツ)、マイク・スチュワート(司法長官。ティモシー・カーハート)、トーマス・レインウォーター(部族政府首長。ギル・バーミンガム)、ダン・ジェンキンス(開発業者。ダニー・ヒューストン)、

<シーズン2から>マルコム・ベック(不動産開発業者。ニール・マクドノー)、カウボーイ(スティーヴン・ウィリアムズ)、キャシディ・リード(ケリー・ローバッハ)

<シーズン3から>
ロアーク(ヘッジファンド・マネージャー。ジョシュ・ホロウェイ)、エリス・スティール(マーケット・エクイティーズのマネージャー。ジョン・エメット・トレイシー)、ティーター(ジェニファー・ランドン)、ミア

WOWOWにて放映。シーズン1・2は放映終了(オンデマンド配信あり)。3を放映中。

★注意! 後半はシーズン1のあらすじを書いています!


モンタナ州イエローストーン国立公園に隣接するイエローストーン牧場。
ジョン・ダットンは、代々続く広大な牧場の経営者であるとともに地元の権力者でもある。家畜協会の代表を務め、州知事のベリーとも懇意にしている。
開発業者によって近接する土地が新たに買収され、イエローストーン牧場は、イエローストーン国立公園、ブロークンロック先住民居留地、宅地造成予定地に囲まれることとなった。部族政府の首長トーマス・レインウォーターは、白人に奪われた先祖の土地を取り戻そうとし、開発業者のジェンキンスはモンタナに新しいマンションやカジノを造成する計画を進めようとし、ダットンと対立する。
ドラマは、この三者の三つ巴の戦いとともに、ダットン家内部の複雑な家族関係を描いていく。兄弟中で最も危うさを感じさせるケイシーとその妻モニカと幼い息子テイトの行く末が気にかかるところだ。
これまでのアメリカ映画だったら、おそらくレインウォーターやモニカらインディアンとそれに寄り添う白人男性ケイシーが主役となり、牧場と町を牛耳るジョン・ダットンは対立する巨悪の大ボスといった役どころとなるだろうか。ところが、ここではその大ボスが主役である。レインウォーターは、インディアンのリーダーだが、虐げられた被害者ではなく、メキシコで育ったインテリで、祖先の地に戻ってきた政治家として大いなる野心を見せる男である。父を嫌っていたケイシーは、結局牧場に戻り、ジョンは父親らしい面も見せる。一概にだれがいい奴でだれが悪い奴とは言えない、複雑で重厚な人間たちの群像劇となっている。
ドラマでは、敵味方警察関係なく誰もがやたらと人を殺す。製作総指揮のシェリダンが監督した映画「ウインド・リバー」を見れば、アメリカの法制度の下、先住民居留地とその周辺地域がどれだけ法律に守られていない場所かよくわかるが、登場人物たちは現代なのに西部開拓時代のような無法ぶりを見せる。警察や行政も絡んで画策に加担し、事実を隠して首尾よく形を整えることがまかり通っている。ここでこの人(たち)がこの人(たち)を殺すのか!?と唖然とし、暗澹たる気持ちになることもしばしばである。シーズン2では、ベック兄弟を相手に血で血を洗う壮絶な殺し合いが展開する。
一方、雄大なモンタナの大自然を背景に、どこまでも広がる牧場での現代のカウボーイたちの仕事ぶりや生活が丁寧に描かれているのは興味深い。少年テイトの存在が、救いとなっていて、ジョン・ダットンが孫をかわいがるおじいちゃんとしての一面を見せる場面にもほっとする。

◆シーズン1(ドラマの内容を書いています)
ダットン家の長男リーは、カウボーイとして牧場の維持管理をしているが、経営者としての自覚はいまひとつ、牛を巡るいざこざから先住民のロバート(モニカの兄)に殺されてしまう。
次男のジェイミーは、弁護士で父の役に立とうと頑張っているが、今一つジョンから認められず、次期司法長官選挙に出馬して、ジョンと対立することとなる。
長女のベスは、少女時代、落馬事故で母を亡くしたことがトラウマになっている。牧場を出て都会で投資ビジネスに辣腕を振るっていたが、父の手助けをするためイエローストーンに戻ってくる。
三男のケイシーは、父を嫌い、特殊部隊の兵士として戦地に赴いていたが、帰国して先住民のモニカと結婚し、息子のテイトとブロークンロック居留地で暮らしていた。が、居留地イエローストーン牧場との間の争いから妻子と別れ、牧場に戻ってジョンの後を継ぐ決心をする。
牧場は何人ものカウボーイを雇っている。カウボーイ頭のリップは、少年のころジョン・ダットンに拾われ、彼を慕い、時として非道な彼のやり方を受け入れ、牧場で生きてきた。Yの字をあしらったイエローストーン牧場の烙印は、牛だけでなく、カウボーイたちにも押されている。烙印のあるカウボーイは、臨時雇いのよそ者カウボーイとは一線を画し、牧場に守られるとともにそこから抜け出すことは難しくなっている。(烙印は、カウボーイだけでなく、ジョンの息子たちにも押されていることが、のちに明かされる。)

◆シーズン2,3
新たな敵ベック兄弟が登場、情け容赦ない攻撃にダットンが反撃する(シーズン2)、ジェンキンスに代わって遠大な開発計画を打ち出す大手開発業者が介入、イエローストン牧場は存亡の危機に立たされる(シーズン3)といった展開となっていく。状況が変わるにつれ、ジョン・ダットンとレインウォーターとの関係も変化していくのがおもしろい。

<シーズン1>
1.夜明け、2.口封じ、3.弔いの日、4.カウボーイの掟、5.重い絆、6.刻まれた記憶、7.敵か味方か、8.綻び、9.決別
<シーズン2>
1.遠雷、2.新たな始まり、3.無法者、4.悪魔の取引、5.命知らず、6.血の代償、7.オオカミの襲来、8.荒野の誓い、9.敵討ち、10.父から子へ
<シーズン3>
1.宿命の大地、2.大いなる野望、3.駆け引き、4.侵入者、5.罪なき死、6.絶望の果て、7.解かれた封印、8.殺すか殺されるか、9.悪より冷酷に、10.帝国の終わり

 

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映画「パワー・オブ・ザ・ドッグ」を見る(感想)

パワー・オブ・ザ・ドッグ The Power of the Dog
2021年 アメリカ / イギリス / ニュージーランド / カナダ / オーストラリア  127分 Netflix
監督:ジェーン・カンピオン
原作:トーマス・サヴェージ「パワー・オブ・ザ・ドッグ」
出演:フィル・バーバンク(ベネディクト・カンバーバッチ)、ジョージ・バーバンク(ジェシー・プレモンス)、ローズ・ゴードン(キルステン・ダンスト)、ピーター・ゴードン(コディ・スミット=マクフィー)

 

★ネタバレあります!★


1925年のモンタナの牧場が舞台。
フィルとジョージは、兄弟で牧場を経営している。フィルは見るからに粗野で男臭いカウボーイ野郎だが、弟のジョージは物静かで温和な男である。ジョージは、食堂で働いていた寡婦のローザと結婚し、妻として牧場に迎える。彼女には、亡くなった先夫との間にピーターという息子がいる。ひょろっとしていかにもへなちょこそうなインテリ青年で、最初に食堂で会ったときから、フィルはピーターをバカにしてからかい、ローズにも敵意をむき出しにする。
映画の宣伝文から、アメリカの牧場を舞台にした、兄、弟、弟の妻が繰り広げる男女の愛憎渦巻くドラマかと思ったのだが、違っていた。ピーターという青年が大きな役割を果たし、まさかのブロークバックマウンテンからの実は恐ろしい子という展開である。
最初はジョージ、その次は結婚して牧場へやってきたローズ、そしてピーターとフィルへと主観が転々と変るのはおもしろいと思った。主要4人の俳優もそれぞれいいと思った。
が、造花や杭やロープを使った、私でもわかる露骨なセックスの隠喩(というのか?)や、絵に描いたように飲んだくれていくローズや、しつこくしつこくブロンコのスカーフと戯れるフィルや、ピーターとフィルがたばこをこれもしつこく交互に吸いあうシーンなど、これみよがしというかあざといというかそんな風に感じられてしまい、わたしとしては好きになれない作風だった。
アカデミー監督賞を受賞するなど、世間的に高評価なのはマッチョをネガティブに描いているところとか性的なマイノリティを扱っているところなどがジェンダー的視点が重視されてきた時代に即しているからということなのだろうか。また、人によっては、マッチョそうに見えて実はインテリで繊細なフィルという人物の持つギャップがたまらないのだろうか。
牧場から望む山の遠景はよかったが、蛇行する道を車が牧場に向かう俯瞰ショットはそぐわないと思った。アメリカの西部の荒野では視点は地上にある方がいいとわたしは思っている。また、せっかく牧場を舞台にしているのに、フィルとジョージ以外のカウボーイはその他大勢の端役で、広大な牧場でのカウボーイの働きがあまり描かれていないのも残念だった。

 

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