「アパルーサの決闘」:小説を読んで映画を見る

●小説
アパルーサの決闘 Appaloosa
ヴァージル・コールと相棒のエヴェレット・ヒッチが、アパルーサの町で保安官とその助手となって、町を牛耳る牧場主に立ち向かう。
悪玉の逮捕。移送途中での襲撃。荒野で寝泊まりしての追跡。インディアンとの遭遇。激しい銃撃戦。正統派西部劇の典型のような話であるが、その合間に絡む、ヴァージルと、ホテルのピアノ弾きアリーとの恋が、ひねりをきかせる。初めて恋仲になった白人女アリーに夢中になるヴァージルは、アリーの尻軽さを知っても彼女から離れることができない。
エヴェレットは、ウェストポイント(アメリ陸軍士官学校)の出で、本もよく読み、エイト・ゲージのショットガンを愛用している。一方、ヴァージルは、クラウゼヴィッツ戦争論をことあるごとに持ち出すが、会話の中で単語を間違えて使ったりする。15年来のつきあいである二人の関係がいい。
連邦保安官助手や、敵方に雇われたガンマンたちは、ものの道理をわきまえているし、エヴェレットのお気に入りの娼婦ケイティは気持ちの良い女性である。
エベレットの語り口と、男たちが交わす言葉が実にシンプルで味わい深い。間が効いていて、心地いい。
そしてなによりも、本来脇役である位置のエヴェレットが、実は主役であるのが、個人的には完全につぼだ。
アパルーサは、架空の町だが、巻末の東理夫の解説によれば、もともとは、ぶち柄の馬の種類の名前らしい。物語にも、何回となく、荒野にたむろするアパルーサの種馬と彼が率いる牝馬たちの群れの様子が描かれている。 (2007.12)
映画化:”Appaloosa”(2008年)、エド・ハリス監督・主演(ヴァージル)、ヴィゴ・モーテンセン(エヴェレット)。日本未公開。

●映画
・小説を読んだ後に見ました。
アパルーサの決闘 Appaloosa
2008年 アメリカ  115分 日本未公開
監督:エド・ハリス
原作:ロバート・B・パーカー「アパルーサの決闘
出演:ヴァージル・コール(エド・ハリス)、エヴェレット・ヒッチ(ヴィゴ・モーテンセン)、アリー・フレンチ(レニー・ゼルウィガー)、ランドール・ブ ラッグ(ジェレミー・アイアンズ)、オルソン(ティモシー・スポール)、リング・シェルトン(ランス・ヘンリクセン)、アブナー・レインズ(トム・ボウ アー)、アール・メイ(ジェームズ・ギャモン)、ケイティ(アリアドナ・ギル)、ホイットフィールド(ガブリエル・マランツ
ロバート・B・パーカーの同名の西部小説を、エド・ハリスが監督・主演した西部劇。
日本では公開しないので、英語版のDVDを見た。
保安官を殺し、傍若無人にふるまう牧場主ブラッグ。アパルーサの町の人々は、名うてのガンマン、ヴァージル・コールとその相棒エヴェレットを保安官及び保 安官助手として雇い、ブラッグに対抗させる。両者の対立を軸に、未亡人アリーをめぐる三角、四角関係が絡んで、話は、原作に忠実にたんたんと進んでいく。 物静かで地味な映画である。
原作では、ヴァージルの相棒であり、語り手であり、最後には男をみせるエヴェレットがかなり良い役回りであったのだが、映画では、ヒーローとその相棒とい うよりも、ヴァージルとエヴェレットはほぼ同等に扱われ、区別がつかないことはないが、二人の違い、対照的な部分が見えにくい。ヴァージルはもっと派手に ヒーロー然としているというイメージがある。ヴィゴ・モーテンセンのエヴェレットは、たしかに最後のところは良い感じだが、「オーシャン・オブ・ファイ ヤー」のカウボーイ役の方が私は好きだ。
アリーも地味だ。女が1人で西部で生きていくにはしかたないよねと思わせるばかりで、原作から期待した尻軽でしゃあしゃあとしたセクシーな美人とはほど遠 い。
町の外れの荒野にいる、雌たちを従えた雄のアパルーサ種の馬の群れも出てこなかった。折に触れ、ヴァージルは、この馬の群れを眺めるのだが、象徴的で視覚 的なこのイメージがないのは残念だった。アパルーサという種の馬がどんなものなのか見てみたい気持ちもあった。
ということで、悪くはないが、私には薄味過ぎてちょっと物足りなかった。(2009.4)