映画「第9地区」を見る

第9地区 District 9
2009年 アメリカ・ニュージーランド 111分
監督:ニール・ブロンカンプ
製作:ピーター・ジャクソン
出演:ヴィカス(シャールト・コプリー)、クーバス大佐(デヴィッド・ジェームズ)、クリストファー・ジョンソン(ジェイソン・コープ)、タニア(ヴァネッサ・ハイウッド)

(後の方、断り書きに続いてねたばれあります)
南アフリカ共和国ヨハネスバーグで繰り広げられる、エイリアンと人類の共生問題SF。
20年ほど前、突然巨大宇宙船が飛来し町の上空に停止した。人類は船内で瀕死の状態にあるエイリアンたちを発見し、保護する。やがて、宇宙船が故障して故郷に帰れない彼等のために居住区(第9地区)が設置されるが、見た目が醜悪な上に粗暴であまり頭がよくないエイリアンたちは人々から嫌われ、第9地区はスラムと化していく。エイリアンたちは、その姿形から「エビ」という蔑称で呼ばれるようになる。
そして現在、対エイリアン事業を引き受ける国際企業MNU(Multi National United)は、エイリアンたちを町から追い出すため、新たな居住区を作り彼等を移住させる計画を立てる。ヴィカスという、あまり面白みのない中間管理職の男が、計画実行の責任者に抜擢される。
前半は、ヴィカスが第9地区を訪れ、エイリアンたちに立ち退きを命じる様子が、テレビのニュース映像の撮影という形をとってドキュメンタリー・タッチで描かれる。
あるエイリアンの家で、ヴィカスは謎のカプセルを発見し、中に入っていた黒い液体を顔面に浴び、あわててぬぐった左手に炎症を負う。これにより、彼の運命は急転する。
「感染」したヴィカスの肉体に異変が生じていく。貴重な実験材料として、彼はMNUから追われる身となり、クリストファーというエイリアンとその息子にかくまわれる。
粗末な小屋がたち並び汚物が散らかるスラムを背景に、銃撃によって血や肉やエイリアンの体液が飛び散り、ヴィカスの肉体も爪が剥がれ皮膚が裂けて見るからに痛そうに気持ち悪く変貌していくなど、えぐい部分がたくさんあるので、人によっては見るのが辛いかもしれない。
が、とにかく勢いがある。ヴィカスが追われる身となってからは特におもしろく、多少タッチが苦手だと感じつつも、どんどん引き込まれてしまった。
(★以下ねたばれあります★)


黒い液体は、学識者エイリアンのクリストファーが20年かけて作り出したものだった。エイリアンのDNAが混じっているせいで、ヴィカスの身体はエイリアンに変化しつつあるのだが、クリストファーの目的は、それを動力源として、スラムの地下に隠した指令船を作動させることにあった。
二人はMNUラボを襲撃してカプセルを奪還、第9地区ではMNUの追っ手部隊と地元のギャングを交えた三つ巴の戦いが展開する。ヴィカスの左腕がエイリアンの腕へと変化したことで、彼は腕と銃器が一体化するエイリアン専用の武器を自在に扱えるようになるのだが、この設定はなかなか愉快である。
話はどんどん盛り上がり、ヴィカスとクリストファー親子との間に心の通い合いが生まれつつあると思ったところで、ヴィカスがだめ人間丸出しの自己中ぶりを発揮してしまい、ああ、こりゃ身も蓋もなく終わるかもと危惧した。ところがどっこい、追いつめられたヴィカスは意外な男気を見せ、パワードスーツ(というのか)で応酬。わくわくしながら最後まで見ることができた。
「E.T.」(宇宙人だからだが、スピルバーグだとむしろ「シンドラーのリスト」の方が近いかも)と「ザ・フライ」と「ファイヤー・フォックス」あるいは新しいところで「ブラッド・ダイヤモンド」あたりがチープに入り交じったような、痛快アクションとなっていって、ラストはちょっと哀愁も漂う。
ヴィカスが、人間の眼とエイリアンの黄色い眼と、異なる二つの眼で、飛び立つ宇宙船を見送る場面は、感動的だ。

第9地区 [DVD]

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