Netflix配信の西部劇「この茫漠たる荒野で」を見る(感想とあらすじ)

この茫漠たる荒野で NEWS OF THE WORLD
2020年 アメリカ NetfliX配信(2021年) 119分
監督:ポール・グリーングラス
原作:ポーレット・ジャイルズ “NEWS OF THE WORLD”
出演:ジェファーソン・K・キッド大尉(トム・ハンクス)、ジョハンナ・リオンバーガー/シカダ(ヘレナ・ゼンゲル)、サイモン・ブードリン(レイ・マッキノン)、ドリス・ブードリン(メア・ウィニンガム)、ガネット夫人(エリザベス・マーヴェル)、アルメイ(マイケル・アンジェロ・コヴイーノ)、ファーリー氏(トーマス・フランシス・マーフィ)、ジョン・キャリー(フレッド・ヘッキンジャー)、ウィルヘルム・リオンバーガー(ニール・サンディランズ)、アンナ・リオンバーガー(ウィンサム・ブラウン)

★映画の内容について書いているので、まだ見ていない人はご注意ください。


Netflix配信によるトム・ハンクス主演の西部劇。
文芸作品のようなやけにきどった邦題がついているが、原題は「世界のニュース」で、これも西部劇らしくはない。舞台は、1870年のテキサス。ジェファーソン・K・キッド大尉は、元南軍の退役軍人で、新聞の記事の読み聞かせをしながら西部の町を巡って生計をたてている。原題は、「世界のニュースをお届けします」という、彼の口上からきている。
ある日、彼は旅の途中でジョハンナという10歳の少女と出会う。彼女は、幼いころカイオワ族に家族を殺され、自分は連れ去られて6年間彼らとともに暮らしていた。が、騎兵隊の討伐により、今度はカイオワの家族を殺され、再び孤児となったのだ。
彼女はドイツ移民の子で、叔父夫婦がテキサス南部のカストロヴィルにいると知ったキッドは、人手不足でなかなか来ない騎兵隊の担当者に代わって、彼女をそこまで送り届ける決心をする。
テキサス州北部のウィチタフォールズから、ダラスを経て、南部のサンアントニオ近くのカストロヴィルまでの馬車の道のりは長い。ジョハンナは、「シカダ」と名乗りカイオワ語しかしゃべれず、英語を解さない。ドイツ語にはちょっと反応するが、4歳までの記憶はほぼ失くしているようである。キッドは、サンアントニオに家があり、妻が待っているはずなのだが、なにか訳ありで帰ろうとしない。馬車の旅を続けながら、二人は、お互いの言葉を教え合い、少しずつ心を通い合わせていく。
西部劇だが、活劇というよりは旅の映画だ。南北戦争終結から数年後、南部の人たちは苦しい生活を強いられている。キッドは同じところを巡回しているようで、町の人たちは彼がくると声をかけ、読み聞かせの場所に集まってきて、キッドが語る知らない町のできごとに耳を傾けるのをささやかな楽しみにしている。情報が行き届かない時代ならではのなごやかさが感じられる。
キッドとジョハンナは旅先で様々な人々に出会う。南部の町を管理する元北軍の騎兵隊員たち、カイオワ語を喋れるホテルの女主人(ガネット夫人)、南軍くずれの悪党(アルメイ)、バファロー狩りで成功し小さな町を牛耳る男(ファーリー氏)、彼の支配から逃れて新天地を目指す若者(ジョン・キャリー)など。
アクションシーンはそう多くないのだが、岩場での銃撃戦は見応えがあった。ジョハンナを狙うアルメイとその仲間の男たちが、二人の行く手を阻み撃ち合いになる。キッドは友人から借りた拳銃のほかには鳥撃ち銃しか持っていない。ジョハンナがとっさの機転で、ニュースの読み聞かせで集めたダイム(十セント硬貨)を持ってきて、それを何枚も重ねて弾薬のカートリッジに詰めて撃つのが興味深かった。白昼の、岩場での銃撃戦はやはりいい。
しかし敵は人だけでなく、西部の自然は過酷で、二人は急斜面で馬車が暴走して荷物も馬も失くし、砂漠をさまよっているところで砂嵐に見舞われる。嵐の荒野の中に現れたインディアンの一行はまるで幻のようだったが、彼らはカイオワ語で話しかけるジョハンナに一頭の馬をくれるのだった。
伯父の住む町が近づいてきたあたりで、ジョハンナはカイオワにさらわれる前に住んでいた家を見つける。6年前の惨劇の跡は風化している。黒ずんだ血痕が残る空き家の室内に見入るジョハンナと彼女を見守るキッド。言葉や回想シーンなどによる説明は何もなく、ただ風が吹いている感じがなんとも悲しい。
物静かで、しぶい色調の画面、淡々と進む物語に重量感のある銃声という、最近の西部劇にみられがちな要素が盛り込まれている。つらいことの多い話だが、西部の風景と主演の二人がいいので、そんなに暗くならずにしみじみしながら見ることができた。

以下、ジョハンナの叔父夫婦に会ってからのあらすじである。

 

農夫の叔父夫婦は、苦しい生活のせいか、妹(ジョハンナの母)とあまり仲がよくなかったせいか、ジョハンナと再会してもあまりうれしそうではなく、ただ労働力が増えたことを喜ぶ。物語が好きだから本を買ってやってくれというキッドに、そんなもの役に立たないという。
不安を残しつつ、肉親の元で暮らすのが一番いいだろうと、彼はジョハンナを叔父夫婦に託して、サンアントニオに帰る。そこで、彼の妻はすでにコレラで亡くなっていることがわかる。彼は、戦争で多くの命を奪った裁きで妻が死んだのだと言うが、町に住む古い友人は、そんな彼の言葉を否定し、彼を慰める。
ジョハンナは、叔父夫婦とうまくやって行けずにいた。キッドは彼女を迎えに行く。叔父夫婦もほっとした様子でジョハンナを手放す。キッドとジョハンナはいっしょにニュースの読み聞かせの旅を続けるのだった。

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